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間違いやすい日本語の意味50選と練習問題【た行・な行】

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意味を取り違いやすい慣用句などをご紹介しています。このページは、【た行】と【な行】の日本語を取り上げています。

 

あ行 か行 さ行 た行・な行 は行・ま行 や行・ら行

 

意味を取り違いやすい日本語【た行・な行】

35 他山の石(たざんのいし)
○他人の誤った言行も自分の行いの参考となる
×他人の良い言行は自分の行いの手本となる
36 手をこまねく手をこまぬく(てをこまねく/てをこまぬく)
○何もせずに傍観している
×準備して待ち構える/てこずる
37 鳥肌が立つ(とりはだがたつ)
○恐怖や寒さのために肌が鳥の皮膚ひふのようにぶつぶつになること
×感動すること
38 流れに棹さす(ながれにさおさす)
○流れに乗って勢いをつける
×流れに逆らう/流れの勢いを止めようとする
39 情けは人のためならず(なさけはひとのためならず)
○人に情けを掛けておくと巡り巡って結局は自分のためになる
×人に情けを掛けて助けることは、結局はその人のためにならない

 

意味を取り違いやすい日本語【た行・な行】の解説

35「他山の石」だけだと、「よその山の石」という意味です。「他山の石」に続く言葉があってはじめて本来の意味が成立します。

「他山の石」の出典は、『詩経』「小雅しょうが鶴鳴かくめい」の「他山の石もって玉をおさむべし」です。意味は、「よその山から出た粗悪な石も自分の宝石を磨くのに利用できる」。これから、「他人の誤った言行も自分の行いの参考となる」という意味で使われています。

<参考>「こう」は、「せめる」(攻撃、攻防など)という意味の他に、「玉や金属を磨いて加工する」という意味があります。転じて「知徳を磨く/研究する/おさめる」(専攻など)。

ちなみに、同じ詩の中に「他山の石もっさくすべし」という句があります。(錯:やすり/といし)「よその山から出た粗悪な石でも自分の宝石を磨く道具として利用できる」といったような意味です。転じた意味は同じく「他人の誤った言行も自分の行いの参考となる」。

2013年度の文化庁の調査では、本来の意味を知っていた人は30.8%、間違った人は28.8%でした。注目したいのは、言葉そのものを知らなかった人が、全体の35.9%もいたということです。「他山の石」は、死語になりつつある言葉かもしれません。

 

36「手をこまねく」の「こまねく(拱く)」は、「腕を組む」という意味で、「手をこまねく」、「腕をこまねく」という形で用いられます。※元は「こまぬく」

文化庁は、「『準備して待ち構える』という意味で使われることが多くなっている」としていますが、「てこずる/もてあます」という意味の「手を焼く」と混同しているのではないかと私は思います。※「手をこまねく」の意味(文化庁)

「手をこまねく」と「手を焼く」の違い
例えば、「反抗期の子供に手をこまねく」と「反抗期の子供に手を焼く」を比べると、前者は、「反抗期の子供に何もせずにただ観ているだけ」、後者は、「反抗期の子供にうまく処理できないで困っている、手こずっている」という意味になります。
 
「手をこまねく」は「何もしないで観ている」のに対して、「手を焼く」は「手をつくしているがうまく処理できないで困っている」状態を指します。

 

37 近年、感動・興奮したときにも「鳥肌が立つ」という慣用句が用いられますが、本来の意味は「恐怖や寒さのために肌が鳥の皮膚のようにぶつぶつになること」です。

京都では鳥肌のことを「さむいんぼ」と言っていたようです。広く関西では「さぶいぼ」と言います。いずれも「寒い」と「(鳥肌のような)いぼ」が合体した言葉です。名古屋では「さぶぼろ/さっぼろ」と言います。

 

38 岩手県の「猊鼻渓げいびけい舟下り」、栃木県の「鬼怒川きぬがわライン下り」、京都府の「保津川ほづがわ下り」など、全国には「川下り」を楽しめる観光地がたくさんあります。

船頭さんは、竿さお(棹)を川底や岩に指して舟をたくみに操ります。竿は、舟を前進させたり方向の調整を行うための道具です。竿でブレーキをかけることはほぼできません。

「流れに棹さす」を「流れに逆らう/流れの勢いを止めようとする」という意味で誤用している人は、「じゃまをする」という意味の「水を差す」という言葉と混同しているのかもしれません。文化庁の調査では、約6割の人が意味を間違って認識しています。

 

39「人のためならず」は、「人のためにならない」ではなく、「人のためではない」という意味です。「ならず」は、断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞「ず」なので、「である」+「ない」=「でない/ではない」になります。

<類義語>
・人を思うは身を思う:他人に情けをかければ、やがて報いられて自分のためになる。
善因善果ぜんいんぜんか:良いことをすれば、良いことに恵まれるということ

 

練習問題【た行・な行】

■日本語として間違っている文、または、用語が本来の意味として使われていない文を一つ選び、記号で答えなさい。

(1)A:あの会社の失敗事例を他山の石としていこう。
   B:あの会社の成功事例を他山の石として我が社も取り入れよう。
   C:他人の失敗を他山の石として自らの成長につなげなさい。

(2)A:手をこまねいているならすぐに会議を始めようじゃないか。
   B:緊急事態に彼は手をこまねいていたわけではない。
   C:兄弟げんかに母親は手をこまねいていた。

(3)A:9回裏の逆転ホームランには鳥肌が立った。
   B:今朝は鳥肌が立つほど寒い。
   C:「おどかさないでよ、鳥肌が立ったじゃない。」

(4)A:流れに棹さすことでさらに契約件数が増えるに違いない。
   B:このまま流れに棹さして事業を展開していきましょう。
   C:二人の会話の流れに棹さすかのように彼が割り込んできた。

(5)A:情けは人のためならずの精神で彼を助けることにした。
   B:情けは人のためならずと言うから彼を助けないことにした。
   C:情けは人のためならずを心掛けているが報われたことがない。

 

練習問題【た行・な行】の解答

≫ 練習問題の解答を見る

赤文字が正解です。つまり、日本語として間違っている文、または、用語が本来の意味として使われていない文です。

(1)A:あの会社の失敗事例を他山の石としていこう。
   B:あの会社の成功事例を他山の石として我が社も取り入れよう。
   C:他人の失敗を他山の石として自らの成長につなげなさい。

○他人の誤った言行は参考になる
×他人の良い言行は手本になる

<注意1>「先輩の失敗談を他山の石とさせていただきます。」のように、誤用でなくても、目上の人に対して使うと失礼にあたります。

<注意2>「他山の石とせず」と打ち消しで表現すると、「他人の誤った言行も自分の行いの参考とならない」という意味になります。意味は通じていますが、元の「他人の誤った言行を役に立てなさい」という教訓や句の本質を否定してしまうので、「他山の石とせず」は、誤った使い方だと言えます。

「他人事としないで」と言うために「他山の石とせず」としたならば、「対岸の火事とせず」とするのが適当だと思われます。

(2)A:手をこまねいているならすぐに会議を始めようじゃないか。
   B:緊急事態に彼は手をこまねいていたわけではない。
   C:兄弟げんかに母親は手をこまねいていた。

(3)A:9回裏の逆転ホームランには鳥肌が立った。
   B:今朝は鳥肌が立つほど寒い。
   C:「おどかさないでよ、鳥肌が立ったじゃない。」

(4)A:流れに棹さすことでさらに契約件数が増えるに違いない。
   B:このまま流れに棹さして事業を展開していきましょう。
   C:二人の会話の流れに棹さすかのように彼が割り込んできた。

「流れに棹さす」は、夏目漱石の小説『草枕』の冒頭が引き合いに出されることがあります。句の形は違いますが、「情に棹させば」の部分は、「感情に逆らう」という意味ではありません。

山路やまみちを登りながら、こう考えた。に働けばかどが立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかく人の世は住みにくい。」

下線部の解釈:「理知だけで割り切っていると他人と衝突するし、他人の感情を気遣っていると、自分の足元をすくわれる。(小学館『大辞泉』より)

(5)A:情けは人のためならずの精神で彼を助けることにした。
   B:情けは人のためならずと言うから彼を助けないことにした。
   C:情けは人のためならずを心掛けているが報われたことがない。

何かしらの見返りを求めて「情け」をかけるものではないですね。また、「情けをかける」というと、上から目線のように感じますが、「情け」は、「他人に対する心づかい/哀れみや思いやりの感情」という意味です。

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