このページでは、意味を間違いやすい日本語をご紹介しています。今回は【か行】です。
誤用が広まって、そちらが語句の意味として独り歩きしている例が多くあります。相手によっては失礼にあたる場合がありますので、語句の本来の意味を確認しておきましょう。
意味を取り違いやすい日本語【か行】
10 | 蛙の子は蛙(かえるのこはかえる) ○子供の性質は親に似るものだ/凡人の子はやはり凡人 ×親のように子供も素晴らしい |
11 | 佳境に入る(かきょうにはいる) ○話などがおもしろい部分に入る ×物事や物語が終わりになる/忙しくなる |
12 | 確信犯(かくしんはん) ○政治・思想上などの信念にもとづいて正しいと信じて行う犯罪またはその行為を行う人 ×悪いとわかっていながら行う犯罪、またその犯罪者 |
13 | 割愛(かつあい) ○惜しみながらはぶく(手放す)こと ×省略すること |
14 | 辛党(からとう) ○酒が好きな人 ×辛い食べ物が好きな人 |
15 | 枯れ木も山のにぎわい(かれきもやまのにぎわい) ○つまらないものでも、ないよりはましである ×参加者が多くいた方がにぎやかになっていい |
16 | 元旦(がんたん) ○1月1日の朝、または午前中 ×1月1日の一日中 |
17 | 気が置けない(きがおけない) ○遠慮や気遣いをする必要がない ×相手に気配りや遠慮をしなくてはならないこと/油断できない/信用のおけない |
18 | 琴線に触れる(きんせんにふれる) ○良いものや、素晴らしいものに触れて感銘を受けること/感動や共鳴を与えること ×怒りを買ってしまうこと |
19 | 檄を飛ばす(げきをとばす) ○自分の主張や考えを広く人々に知らせて同意を求める。 ×がんばるよう激励する |
20 | 下世話(げせわ) ○世間で俗に言う話/世間のうわさ ×下品な話 |
21 | 後生(こうせい) ○後から生まれてきた人 ×後の人生 |
22 | 姑息(こそく) ○一時しのぎ/その場しのぎ ×ひきょうな |
23 | 小春日和(こはるびより) ○晩秋のよく晴れた日 ×初春のよく晴れた日 |
24 | ごぼう抜き(ごぼうぬき) ○一気に何人かの走者を追いぬくこと ×次々に一人ずつ走者を追いぬいていくこと |
意味を取り違いやすい日本語【か行】の解説
10「蛙の子は蛙」は、「子供の性質は親に似る」という意味がある一方で、「凡人の子はやはり凡人」という意味があるので、褒め言葉として、あるいは、目上に限らず他人に使うと失礼にあたります。また、自分が権力者や有名人でありながら、自分の子のことを謙遜して、あるいは自慢げに「蛙の子は蛙」と言うのも間違った使い方です。
<類義語>「瓜の蔓に茄子はならぬ」、「鳩の卵が鵯にはならぬ」、「この親にしてこの子あり」、「狐の子は面白」
<対義語>「鳶が鷹を生む」、「烏の白糞」
11 小説やドラマなどのクライマックスが、盛り上がって一番おもしろいことがよくあります。この場合でも例えば「ドラマが佳境に入る」と表現できます。要は、終わりの部分を単に「佳境に入る」とするのは間違いです。
12「確信犯」は、「犯罪行為とわかっていながら罪を犯す者」という意味で使われるケースが多いと思います。しかし、本来は「政治・思想上などの信念にもとづいて正しいと信じて行う犯罪、またその犯罪者」を指す言葉です。
文化庁が実施した調査によると、「確信犯」の本来の使い方とは違う「悪いことであるとわかっていながらなされる行為・犯罪又はその行為を行う人」を選択した人が明らかに多いという結果になっています(下のグラフ参照)。
13「割愛」は「惜しいけれど」、「もったいないけれど」、「残念ながら」、「やむを得ず」省くことを表します。一方「省略」は、「一部分を省いて簡単にすること(短くすること)」という意味です。
例えば、「時間の関係で以下の説明は割愛します。」と「時間の関係で以下の説明は省略します。」の違いは、前者は「時間がないので残念だけど以下の説明を省く」、後者は「時間のないのもあるけれど、以下の説明は不要なので省く」と言っていることになります。
14「辛党」を「辛い食べ物が好きな人」という意味でよく使いますが、本来の意味は「酒の好きな人」を指します。一方、対義語である「甘党」は、「甘い食べ物が好きな人」を指します。
<類義語>左党(酒飲み、左きき)
15「枯れ木も山の賑わい」の「賑わい」の方に目がいってしまいますが、その前に「枯れ木」は、「つまらないもの」の例えです。
<参考>賑やかし:賑やかにするためだけのもの・人
16「元旦」の「旦」は、水平線(-)の上に、太陽(日)が昇るころを表した漢字です。このことから、元旦を厳密に「1月1日の日の出ころ」と言う人もいますが、「1月1日の朝」、「1日1日の午前中」とするのが一般的です。「元旦の朝」という表現は、「朝」という意味が重複してしまいますので注意しましょう。「元旦の午前中」も同様。
ちなみに、妻が夫のこと、あるいは他家の夫のことを「旦那」と言いますが、この場合の「旦」は、「檀」の略字です。「檀那」は「お布施をする人」という意味で、転じて、稼いでお金を持ってくる人、つまり檀那=夫ということです。
17「気が置ける」は、「何となくうちとけられない」、「遠慮される」、「気になる」という意味です。これを打ち消しているのが「気が置けない」という言葉。
「気が置ける」=「気になる」←→「気が置けない」=「気にならない」
18「琴線」とは、和楽器である「琴」の「糸」のことです。琴の糸に触れるとポロンと良い音を鳴らしてくれるといったイメージで覚えておくといいと思います。「琴線」には、「琴糸」の他に「物事に感動し共鳴する胸奥の心情」という意味があります。
「琴線に触れる」は、何か素晴らしいものに触れて感銘や共感を覚えるとき使う言葉です。
19「檄を飛ばす」の「檄」は、「激励」の「激」ではありません。「檄」は、「自分の主義や行動の正しさを人々に知らせる文章(檄文)」という意味の漢字です。訓読みは「ふれぶみ」。「檄を飛ばす」を「叱咤激励(大声で叱るように励まして、奮い立たせること)」と同じ意味で使っている人が多いようです。
20「下世話」は、「下世話な話になりますが」という形で使われることが多いのではないでしょうか。「話」が重複していますが、「下世話な話」で「世俗的な話」という意味です。「下世話」には、「下品な話」、「下ネタの話」といった意味はありません。
21「後生畏るべし」は、「若い人はさまざまな可能性を秘めている。」という意味です。「後生」を「ごしょう」と読むと、「死んだ後の世(来世)」のことです。
「後生に道を譲る」でもよいのですが、「後進に道を譲る」とするのが一般的です。
<参考>後世:のちの時代。のちの世。「後世に名を残す」、後世:死後の世界。来世。
22 文化庁の調査では、約70%の人が「姑息」を「ひきょうな」という意味で使っています。文化庁はこのことを次のように分析しています。
「姑息なやり方ばかりで,あいつはひきょうなやつだ。」というような言い方は,本来の意味に沿って考えても,全く不自然ではありません。重要なことについて,正面から取り組もうとせずに,「一時の間に合わせ」で済ませることに終始すれば,「ひきょう」と見られるのが当然だからです。このように,意味的につながりやすいところがあることで,「姑息」という言葉は「ひきょうな」という意味で用いられるようになってきたのだろうと考えられます。『文化庁月報 平成24年6月号(No.525)』
<参考>因循姑息:古いしきたりにこだわって、その場しのぎに終始すること。
23「小春」は、「初冬の、穏やかで暖かい春に似た日和が続くころ」を指します。季語は「冬」。また、陰暦の十月の異称。(陰暦十月は新暦では10月下旬から12月上旬ごろ)
<参考>小六月:陰暦十月の異称。小春。[季語]冬
24「ごぼう抜き」の意味を整理すると次のようになります。
①棒状のものを勢いよく引き抜くこと
②多くの中から一つずつ勢いよく抜くこと
③デモの座り込みの中から目ざす者を一人ずつむりやりにつれ出すこと
④人事移動などで大ぜいの中から一人をむりやり動かすこと
⑤釣で針にかかった魚を一気に引き上げること
⑥一気に何人かの者を走って追い抜くこと
①~⑤の意味では、一つずつ、一人ずつなど、「一(いち)」が共通して意味の中に入っています。一方、⑥だけ「複数」であることが条件になっています。つまり、競走に関しては、複数の走者を一気に追い抜いたときだけ「ごぼう抜き」という言葉が使われます。
練習問題【か行】
■日本語として間違っている文、または、用語が本来の意味として使われていない文を一つ選び、記号で答えなさい。
(1)A:「私と似てうちの子も数学が苦手なんだよ。」「蛙の子は蛙ですね。」
B:子供が私と同じく数学が苦手なのをみて、蛙の子は蛙だと思った。
C:蛙の子は蛙という言葉通り、娘は母親と性格が似てきた。
(2)A:ミステリードラマが佳境に入り、いよいよ犯人が明かされる。
B:仕事が佳境に入り、みんな疲労困憊の状態だ。
C:ドラマが佳境に入ったときはトイレにも行けない。
(3)A:名前を書いていたのに私のお菓子を食べた妹は確信犯ね。
B:事件はマインドコントロールされた信徒による確信犯だった。
C:彼は政治的信念に基づけば何をしても正しいと思っている確信犯だ。
(4)A:時間の関係上、詳細については割愛して概要を説明するに留めます。
B:紙幅の関係上、これについては割愛して別稿に譲ることにした。
C:このグラフはなくてもいいので割愛すれば3ページで収まると思うよ。
(5)A:彼は辛党だから地酒を贈ると喜ぶと思うよ。
B:彼女はイカの塩辛が大好きなので辛党だ。
C:彼は辛党だと思っていたら下戸らしい。
(6)A:枯れ木も山の賑わいと思い、出席することにしました。
B:枯れ木も山の賑わいと申しますので、ぜひ出席してください。
C:微力ですが手伝いにきました。枯れ木も山の賑わいと言いますからね。
(7)A:元旦の午前中も午後も不在です。
B:元旦の7時ごろに初詣に行く予定です。
C:帰省は元旦になるから朝ご飯の用意をお願いね。
(8)A:この店はアットホームな感じがして気がおけ置けなくていい。
B:気が置けない彼らといると楽しい。
C:彼は気が置けない人なので神経を使うよ。
(9)A:彼は生涯をかけて人々に琴線に触れる曲をつくり続けた。
B:彼からの手紙は、よほど彼女の琴線に触れるものがあったようだ。
C:私の一言が彼の琴線に触れたのか、急に怒り出した。
(10)A:監督は元気のない選手達に檄を飛ばして奮い立たせた。
B:候補者は聴衆に向かって檄を飛ばした。
C:彼は国民に檄を飛ばしたが支持率は過半数を下回った。
(11)A:下世話に「孝行のしたい時分に親はなし」という言葉があります。
B:下世話な話を繰り返した課長は、セクハラで懲戒処分をうけた。
C:下世話な話ですが、「背に腹はかえられぬ」と言います。
(12)A:若い人はさまざまな可能性を秘めている。後生畏るべしだ。
B:彼は後生のために貯蓄を始めた。
C:彼女の偉業は必ず後生に伝えられていくだろう。
(13)A:姑息な手段だがとりあえずこの場を乗り切ろう。
B:市長は姑息な答弁に終始した。
C:彼は姑息な手段で相手選手を倒した。
(14)A:今日は小春日和、もうすぐ桜の季節になるだろう。
B:小春日和が続いていたのに急に寒くなってきた。
C:今日は小春日和になりそうです。いちょう並木は人で賑わうでしょう。
(15)A:機動隊は座り込みをしていたデモ隊を一人ずつごぼう抜きにした。
B:5位だった走者が一人また一人とごぼう抜きしてトップにたった。
C:トップ集団をごぼう抜きし、1位で6区の選手にタスキを渡した。
練習問題【か行】の解答
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赤文字が正解です。つまり、日本語として間違っている文、または、用語が本来の意味として使われていない文です。
(1)A:「私と似てうちの子も数学が苦手なんだよ。」「蛙の子は蛙ですね。」
B:子供が私と同じく数学が苦手なのをみて、蛙の子は蛙だと思った。
C:蛙の子は蛙という言葉通り、娘は母親と性格が似てきた。
(2)A:ミステリードラマが佳境に入り、いよいよ犯人が明かされる。
B:仕事が佳境に入り、みんな疲労困憊の状態だ。
C:ドラマが佳境に入ったときはトイレにも行けない。
(3)A:名前を書いていたのに私のお菓子を食べた妹は確信犯ね。
B:事件はマインドコントロールされた信徒による確信犯だった。
C:彼は政治的信念に基づけば何をしても正しいと思っている確信犯だ。
「確信犯」の対義語はありませんが、しいて言うなら「故意犯」(自らの行為の犯罪性を自覚した上で行う犯罪またはその者」でしょう。
<参考>未必の故意:実害の発生を積極的には意図しないが、発生するかもしれないと知りながら、あえて実行する場合の心理状態。故意の一種。法律用語。
(4)A:時間の関係上、詳細については割愛して概要を説明するに留めます。
B:紙幅の関係上、これについては割愛して別稿に譲ることにした。
C:このグラフはなくてもいいので割愛すれば3ページで収まると思うよ。
(5)A:彼は辛党だから地酒を贈ると喜ぶと思うよ。
B:彼女はイカの塩辛が大好きなので辛党だ。
C:彼は辛党だと思っていたら、まったくの下戸らしい。
下戸は「酒が飲めない人」、「酒があまり飲めない人」を指します。「下戸」の対義語は「上戸」。上戸は「酒好きな人」、「酒がたくさん飲める人」を指します。ちなみに、「笑い上戸」とは、「(酒に酔うと)やたらに笑う癖がある人」のことです。
(6)A:枯れ木も山の賑わいと思い、出席することにしました。
B:枯れ木も山の賑わいと申しますので、ぜひ出席してください。
C:微力ですが手伝いにきました。枯れ木も山の賑わいと言いますからね。
(7)A:元旦の午前中も午後も不在です。
B:元旦の7時ごろに初詣に行く予定です。
C:帰省は元旦になるから朝ご飯の用意をお願いね。
(8)A:この店はアットホームな感じがして気がおけ置けなくていい。
B:気が置けない彼らといると楽しい。
C:彼は気が置けない人なので神経を使うよ。
(9)A:彼は生涯をかけて人々に琴線に触れる曲をつくり続けた。
B:彼からの手紙は、よほど彼女の琴線に触れるものがあったようだ。
C:私の一言が彼の琴線に触れたのか、急に怒り出した。
(10)A:監督は元気のない選手達に檄を飛ばして奮い立たせた。
B:候補者は聴衆に向かって檄を飛ばした。
C:彼は国民に檄を飛ばしたが支持率は過半数を下回った。
(11)A:下世話に「孝行のしたい時分に親はなし」という言葉があります。
B:下世話な話を繰り返した課長は、セクハラで懲戒処分をうけた。
C:下世話な話ですが、「背に腹はかえられぬ」と言います。
<参考>「孝行のしたい時分に親はなし」の類語:「石に布団は着せられず」(石=墓石)、「孝行のしたい時分に親はなし、されど石に布団は着せられず」と続ける場合もあります。
(12)A:若い人はさまざまな可能性を秘めている。後生畏るべしだ。
B:彼は後生のために貯蓄を始めた。
C:彼女の偉業は必ず後生に伝えられていくだろう。
「後生畏るべし」の意味と「こうせい」の漢字を覚えておきましょう。
(13)A:姑息な手段だがとりあえずこの場を乗り切ろう。
B:市長は姑息な答弁に終始した。
C:彼は姑息な手段で相手選手を倒した。
(14)A:今日は小春日和、もうすぐ桜の季節になるだろう。
B:小春日和が続いていたのに急に寒くなってきた。
C:今日は小春日和になりそうです。いちょう並木は人で賑わうでしょう。
(15)A:機動隊は座り込みをしていたデモ隊を一人ずつごぼう抜きにした。
B:5位だった走者が一人また一人とごぼう抜きしてトップにたった。
C:トップ集団をごぼう抜きし、1位で6区の選手にタスキを渡した。
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