意味を取り違いやすい慣用句などをご紹介しています。このページは、【は行】と【ま行】の日本語を取り上げています。
意味を取り違いやすい日本語【は行・ま行】
40 | 破天荒(はてんこう) ○誰も成し得なかったことをすること ×豪快で大胆な様子 |
41 | はなむけの言葉(はなむけのことば) ○旅立ちや門出を祝って、別れて行く人に送る言葉 ×入学や入社を祝って送る言葉 |
42 | 花も恥じらう(はなもはじらう) ○花も恥じらうほどのうら若く美しい女性 ×花も恥じらうほどの若い年齢 |
43 | 紐解く(ひもとく) ○本を開いて読む/調べる ×説明する/謎を解く |
44 | 憮然(ぶぜん) ○思い通りにならないで力を落とす様子 ×不機嫌で怒っている様子 |
45 | 二つ返事(ふたつへんじ) ○躊躇せずにすぐに快く承諾すること ×はいはいと嫌々返事をすること |
46 | 募金(ぼきん) ○寄付金を集めること/寄付で集めたお金 ×寄付をすること |
47 | まんじりともしない ○ひと晩中少しも眠らない ×全く動かない |
意味を取り違いやすい日本語【は行・ま行】の解説
40「破天荒」は、「豪快で大胆な様子」という意味として使っている人が多い言葉です。2020年度の文化庁の調査結果では、65.4%の人が意味を間違っています。「破天荒」の語源をおおまかに知っておけば、今後間違えることはないと思います。
<「破天荒」の語源>
中国、唐の時代、荊州の地からは科挙高等官吏資格試験に合格する者が百年間一人もいなかったために、「天荒」(=未開の荒地)と呼ばれていました。しかし、ある年、劉蛻という人物が初めて科挙に合格し、「天荒を破った」、つまり「破天荒」と賞賛されたと言います。(宋代、説話集『北夢瑣言』の故事より)
41「はなむけ」は、「花を向ける」という意味ではありません。昔、旅立つ人が乗る馬の鼻を行き先に向け、旅の安全を祈ったことに由来する言葉です。
「はなむけ」は、「うまのはなむけ」の略で、旅立ちや門出に贈る品物、金銭、詩歌、言葉などを指します。
42「花も恥じらう」は、花もひけ目を感じて恥ずかしくなるほどの若い女性の美しさを形容した言葉です。「花も恥じらう17歳」といった使い方もしますが、花が恥じらうのは若い女性の美しさであって、年齢に対してではありません。
43「紐解く」の「解く」から、「謎を解く」という意味で使っている人が多いのではないでしょうか。元は、書物を保護・保存するための「帙」と呼ばれる装具の紐を解いて、中の本を読むことに由来しています。なお、「繙く」と書く場合もあります。
「紐解く」→「書物で調べ物をする」→「知りたかったことや知らなかったことなどを書物から得る」→「今まで謎であったことを解き明かす」という流れから、「謎を解く/説明する」という意味が一般化して使われているので、誤用とは言えなくなってきているという意見もあります(相澤2013)。
44「ぶぜん」という読みの音から、「ぶすっとしている」という言葉を連想してしまうような気がします。いろいろな辞書に書かれている「憮然」の意味をまとめると、「憮然」は、失望、落胆、意外さに驚く、不満、唖然といった様子を表す語です。
45 10代の頃、親などに何かしつこく言われて、「はい、はい」と「はい」を重ねて返事をしてしまい、「”はい”は一回でよろしい!」と叱られたことはないでしょうか。このときの「はい、はい」という返事は、嫌々だったと思います。
こういった経験から、「二つ返事」は「はいはいと嫌々返事をすること」という意味だと思い込んでいるのではないでしょうか。しかし、(はい、はいと)機嫌よくすぐに承諾するのが「二つ返事」です。
「二つ返事」は、「はい、はいと重ねた返事」という意味がありますので、快くすぐに承諾するなら「はい、はい」と最初に言っても、「”はい”は一回でよろしい!」と叱られる筋合いはありません。
気ののらない、いい加減な返事は「生返事」、相手の言うことを聞いていないで、いいかげんに返事だけすることを「空返事」と言います。なお、「一つ返事」といった言葉はありません。
46「募金」の「募」の訓読みは「募る」です。募るは、「広くよびかけて集める/募集する」という意味なので、「募金」は、「お金を集めること/寄付で集めたお金」というのが本来の意味です。例えば、募金箱にお金を入れる行為は「募金」ではなく、「寄付」です。
48「まんじり」は、①「ちょっと眠るさま」、②「じっと。まじまじと。」という意味です。①は、打ち消しの語を伴って「まんじりともしない/まんじりともせず」という形で使われます。つまり、「まんじりともしない」は、「ひと晩中少しも眠らない」という意味になります。
②は否定語を伴わず、「じっと見つめるさま」を表し、例えば「まんじりと見る」は、「じっと見る/まじまじと見る」という意味になります。
参考文献:相澤正夫2013「言語動態を多角的にとらえる―コーパス調査と全国調査の複合活用―」『国語研プロジェクトレビュー』第5巻第2号 国立国語研究所 2014年
練習問題【は行・ま行】
■日本語として間違っている文、または、用語が本来の意味として使われていない文を一つ選び、記号で答えなさい。
(1)A:彼の破天荒な行動が、ときに周囲の人を困らせることがある。
B:あの会社は創業者の破天荒な発想により世界有数の企業になった。
C:彼女の破天荒な改革で倒産の危機を乗り切った。
(2)A:お二人の門出を祝し、はなむけの言葉にかえて歌います。
B:以上、卒業後の諸君のご活躍をお祈りし、はなむけの言葉といたします。
C:以上、本校への入学を祝し、はなむけの言葉とさせていただきます。
(3)A:花も恥じらう17歳の彼女は剣道部のマドンナだ。
B:幼馴染みがいつの間にか花も恥じらうほどになっていた。
C:17歳といえば花も恥じらうお年頃だね。
(4)A:我が校の歴史を紐解くと来年で創立100年を迎えます。
B:博士はブラックホールの謎を紐解いた。
C:久しぶりに夏目漱石の『坊ちゃん』を紐解いてみた。
(5)A:彼女がなぜ憮然とした態度で私を責め立てるのかわからない。
B:彼は憮然として肩を落とした。
C:彼は憮然とした表情で立ちつくしていた。
(6)A:彼は私の頼みを二つ返事で引き受けてくれた。
B:彼女の頼みに彼は背を向けて二つ返事をした。
C:取引先は「誠に結構なお話です」と二つ返事で承諾してくれた。
(7)A:募金は被災者救援のために使われます。
B:募金活動とは寄付金を募る活動のことです。
C:今日、被災者救援のために募金をしてきました。
(8)A:彼は目の前の出来事にまんじりともしないで立ちつくしていた。
B:彼女は朝までまんじりともせずに夜を明かした。
C:熱帯夜でまんじりともせずに朝をむかえた。
練習問題【は行・ま行】の解答
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赤文字が正解です。つまり、日本語として間違っている文、または、用語が本来の意味として使われていない文です。
(1)A:彼の破天荒な行動が、ときに周囲の人を困らせることがある。
B:あの会社は創業者の破天荒な発想により世界有数の企業になった。
C:彼女の破天荒な改革で倒産の危機を乗り切った。
(2)A:お二人の門出を祝し、はなむけの言葉にかえて歌います。
B:以上、卒業後の諸君のご活躍をお祈りし、はなむけの言葉といたします。
C:以上、本校への入学を祝し、はなむけの言葉とさせていただきます。
(3)A:花も恥じらう17歳の彼女は剣道部のマドンナだ。
B:幼馴染みがいつの間にか花も恥じらうほどになっていた。
C:17歳といえば花も恥じらうお年頃だね。
Cの文は、「17歳=花も恥じらう」という関係になっているので誤用です。
(4)A:我が校の歴史を紐解くと来年で創立100年を迎えます。
B:博士はブラックホールの謎を紐解いた。
C:久しぶりに夏目漱石の『坊ちゃん』を紐解いてみた。
(5)A:彼女がなぜ憮然とした態度で私を責め立てるのかわからない。
B:彼は憮然として肩を落とした。
C:彼は憮然とした表情で立ちつくしていた。
(6)A:彼は私の頼みを二つ返事で引き受けてくれた。
B:彼女の頼みに彼は背を向けて二つ返事をした。
C:取引先は「誠に結構なお話です」と二つ返事で承諾してくれた。
(7)A:募金は被災者救援のために使われます。
B:募金活動とは寄付金を募る活動のことです。
C:今日、被災者救援のために募金をしてきました。
募金はお金を出す側が使う言葉ではありません。「募金をする」は、「お金を寄付する」、「お金を義援する」が正しい言い方です。しかし、善意的な行為に対して、「あなた、言葉の使い方間違っていますよ」とは言えないのではないでしょうか。
(8)A:彼は目の前の出来事にまんじりともしないで立ちつくしていた。
B:彼女は朝までまんじりともせずに夜を明かした。
C:熱帯夜でまんじりともせずに朝をむかえた。
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